軌道を地球に向けて堕ちていくユニウスセブンを、子どもたちは見つめていた。周りを取り囲むように、ジンとザフトの艦隊が闘っている。
「なあ、ネオ。母さん……きっと無事だよな? 助かるよな?」
 アウルが、震える声で禁忌を言葉にしたが、彼は不思議に思うくらい落ち着いているようにネオには見えた。常に、アウルの思考と母親を切り離すべきだと思っていたが、大人が過保護に心配せずともよかったのかもしれない。
「さっきから言ってるだろ、アウル。あれだけの大きさのが地球に向かってるんだったら、誰だって避難するさ。それに、ザフトの連中だって、あれを壊そうとしてるんだろ」
「ほんとう? だれも死なない?」
 アウルに続き、ステラまでもが禁忌に触れた。しかしながら、すがるような、助けを求めるような瞳でネオを見上げる少女も、やはり取り乱す様子はない。二人を宥めるスティングは、いつも通りに役割を果たしている。
「大丈夫だよ、お前たち」
 ネオは、ステラ、アウル、スティングの頭を順番にくしゃりと撫でて言う。
「イアンに聞いたんだ。地球にいる軍はあれの破壊を目標にしているし、避難も進めているそうだ」
 ネオは、描かれているなかで、子供たちにとってのベストであろうシナリオを話した。あれだけの大きさのものがぶつかる被害は計り知れないが、それを必死になって食い止めようとしている人が大勢いる。きっと、最悪の事態は起こらないだろう。
「お前たちは早く休むこと。これから忙しくなるんだし、ここにいたって仕方ないだろう」
 もう行きなさい、とスティングに促せば、素直に二人をつれて寝床へと進んだ。途中、ステラが振り返る。おやすみなさい。唇の動きを見届けて、ネオも踵を返した。



 あの子たちは、今日のことをどれだけ覚えていられるだろう。ブロックワードを口にしても何も起こらなかったことも、ザフトが地球のために動いたことも、きっと次に目が覚めたときには忘れている。不要と判断されたなら、ネオが撫でた感触だって。
 口の中に広がる苦味を、冷水で飲み込む。明日はきっと、忙しくなる。