ミネルバクルーは、当然だが宇宙しか知らない者が多い。目にするもの肌に触れるもの全てが新鮮だというクルーたちは、わざわざ休憩時間のシフトをガチガチに管理して甲板に出ていた(紫外線、気圧、その他環境への対策、ユニウスセブン落下後のデータが不十分であるためだ)。地球育ちのシンとオーブで生活していたアスランのみ、他のクルーほどには騒がずに生活している。
むしろ、シンは他のクルーほど感動できないし、パイロットであることを理由に艦内業務をある程度免除されているために、インパルスのシミュレーション以外にすることがなく、暇をもて余していた。
何か面白そうな作品はないのかと、シンが電子書籍販売画面を眺めて、いくつかのサンプルをダウンロードしたところで、ドアの開く音がしたので、シンは画面をスリープさせて、同室者の方を見た。心なしか、朝見たときよりもぐったりしているように見える。
声をかけてもなにも返せない様子だったので、シンはそっとレイの手を引いて、ベッドに座らせた。
「レイ、しんどいと思うけど、ちょっとそのままで待ってて」
ゴミ箱の袋を取り出して新しいのをかけ、冷やした水のボトルの蓋を緩めてやる、タオルの用意等、シンはある程度の準備を済ませ、ゴミ箱を片手に持ちレイの隣に座る。
「酔っちゃっただけか?頭痛はしない?」
レイは質問は聞き取ったもののわかっていない様子だった。
「えーと、気持ち悪いとか、吐き気がするとか。もしキツいなら、戻した方が楽になると思うけど、どう?」
「たぶん、そこまでじゃない……と思う。頭痛もない」
いつものレイよりはたどたどしい言い方だったが、シンは納得することにした。アカデミーの寮で同室だった頃からの付き合いだ。申告が嘘か本当か位は判断できる。
取り敢えず横にさせよう、とシンが制服の上着とブーツを脱がせたのだが、レイは座ったまま動こうとしない。シンは、レイの制服を受け取って艦内クリーニング用のかごに入れてから、レイが髪をいじっていることに気付いた。そうだよな、気になるよな。たぶん、レイには初めて体験することならなおさら。
「髪とか洗うのはあと。とにかく今は休めって」
どうにか説得をしてレイを寝かせ、シンはベッド下の収納にもなっているスツールに腰かけた。
ゆらゆら、不規則に艦は揺れる。無重力とは違う浮遊感は苦手なのか、レイは眉間にシワを寄せた。
「レイ、外はどうだった?」
少しでも気が紛れれば、とシンは話を振ってみた。プラント育ちのレイには、きっと何もかも新鮮だっただろうし、オーブに着く前位、こういう話題でもいいだろう。
「プラントとも、訓練用のコロニーとも違ったろ。レイはどう感じたかなって思ってさ」
「そうだな……海は思っていたよりも青くなかったし、風も強い。プラントとはまるで違った」
「何色に見えた?」
「紺色に近いと思う」
また外に行くときは、たぶんその色も変わってる。そうなのか。そうだよ、地域によってきれいな青とか緑色とか、違って見えるから。それに、天気によっても。……明日、早起きして日の出も見ない? せっかく地球にいるんだし、きっときれいだ。
途中から睡魔に負けてしまったレイだったが、朝焼けの約束は覚えていて、二人だけでこっそり見に行くつもりだったのだが、天候に恵まれず、オーブ領海近くとなると艦内が慌ただしくなり、結局果たせぬ約束となってしまった。