パイロットかつ赤服を着る実力者というのが、パーソナルカラーが許される、という不文律と結びつけて考えられるのは、歴代のパイロットの機体が好きにカラーリングされている事実に基づいている。そんな特権が認められるザフトレッドにシン、レイ、ルナマリアの三人がなれたことに加え、新型艦への配属に、新型機の受領ときた。友人たちは大いに沸き立った。
「それでさ、三人はどんな色がいいかもう決めたの?」
ヴィーノが振った話題にまず応じたのはルナマリアだった。
「赤の、ちょっと暗めのがいいなって思ってる。イメージはまだ見てないけどね」
「お姉ちゃん、ジャスティスの色が良いんでしょ? だったらそう言えばいいじゃないの」
「メイリン! あんたあたしの好みくらい知ってるでしょ?」
「お姉ちゃんが赤色好きなのは昔っからだけど、アスランさんに憧れてもっと好きになったんじゃなかったっけ?」
妹にからかわれて顔を真っ赤にした姉を、整備士コンビが宥める。二人はこれまでに機体のカラーリング調整を間近で見ていたし、彼ら以外のパイロットが「ラクスのファンだからピンクがいいけど、全部そうだと格好つかない」とか「どの色もよく見えてなかなか決まらない」とか話すのをよく聞いていた。なので、ルナマリアが憧れの英雄にあやかりたいと思うのに、ヨウランが特別何か言うことはない。
「ルナ、ジャスティス色にするのはいいけどさ……壊すなよ?」
「うっさいわね。あたしのはもう良いでしょ! シンはインパルスの色決めたの?」
「決めたもなにも。俺はデフォルト配色希望」
インパルスは白がベースカラーで、それにソード、ブラスト、フォースのシルエットを換装することで装甲にも変化を起こし、色を変えられるようになっている。シンにとっては、初めこそ一人で三機のザクを好きな色にしてもいい、と言われたような気分になったが、わざわざ色を変えようとは思えなかった。もしフォースシルエットの翼に似た背部パーツがブルーだったら変更したかも知れないが。
ヨウランがタブレット端末を机の中心に置く。画面には話題に上ったインパルスが映っていた。
「……研修あったから聞いてたけど、これ全部私が発射するの? 間違ったら大変だよね……」
「大丈夫。シルエット違ってもどうにかするし。腕と足はミスったら変な見た目になるから、それだけ気を付けてくれれば」
「そんなことしないよ…………たぶん、だけども」
シンの言葉に萎縮してしまったメイリンの語尾はほとんど消えかけだ。そんな彼女に自信持ってよ、と明るい声を出すのはヴィーノ一人だけだ。パイロットの三人とCIC担当になる彼女の間には、誰より緊密な連携が求められる。彼らはそう思っているからこそ、簡単には慰められないのだろう。ヨウランとしては、意味の薄い慰めはヴィーノがやればいい、と考えている。ルナマリアと自分は一つしか彼らと違わないが、それでも、一つは上なのだ。
そこでヨウランは空気を入れ換えてやることにした。調度レイに話を振れるタイミングでもある。
レイに聞くと、まだカラーを決めていない、と意外な答えが返ってきた。レイは何事も早めに対応するので、塗装は未着手でも配色までは決めているものと思っていただけに、疑問が浮かぶ。
「ベースの色さえ決めれば、あとは担当者がある程度の差し色も考えてくれるはずだぞ。好きな色を伝えたら一発だ」
「その好みのがカラーバリエーションから外されていたんだ」
ヨウランはすぐにその色を思い出す。シルバーとグレー。そのどちらも白に近い。表向きは完成したザクの体がそれらの色に近い、黒白の中間の灰色と言った感じの色味だからだが、それ以外にも理由はある。プロヴィデンス……ヤキン・ドゥーエで一騎討千の活躍をしたという機体だ。ベースに使用していたのがパイロットのパーソナルカラーだったのだが、それがザフトの量産機とも被っていたため、直近の機体からは配色が変更となったらしい。
憶測だが、禁止された色に乗っていた量産機パイロットの誰かにレイと親しい人物が乗っていたので、レイが機体の色にこだわるのでは? と考えられた。もっとも、レイは自分のことをまるで話さないから、想像の域の話だが。
「レイのザク、白にしたらどうかな? パイロットスーツとお揃いの。そしたら、差し色もすぐ決まるよね」
ヨウランが思考に耽っていたところを、メイリンが手近な話題に連れ戻す。彼女の言う通り、レイは通常の赤や黄緑を基調にしたものとは違い、白と薄紫のスーツを支給された――赤の三人の階級は同じであるが、レイがミネルバMS隊のリーダーと言うことらしい。彼女に提案された通りのカラーリングを施した完成予想を液晶に映す。ルナマリアが無意識に感嘆の息を漏らした。
「レイ、これに決めちゃったら? スゴくレイって感じするもの」
「どんな理由だよ! 第一本人はどう思って……」
パイロットの二人が、半ば無責任に新色のザクファントムをもてはやす横で、数秒画面を覗き込んだレイは「そうさせてもらう」と即決。いいのかそれで、と友人がその場の勢いに流された形になったことを心配するシンを横目に、ヨウランは内心、白の方が似合ってるじゃん、と感心していた。