シンとわたしの間には、絶対に踏み越えられない、短くて深い溝がある。とうぜんだ。わたしがシンの恋人だからといってシンの痛みも悲しみも全部を理解できるわけではないし、それができる人はみんな、みんなシンから離れていった。
ただ、そうしてほしいときに寄り添ってほしい相手にはわたしを選んで、と願っている。だから、なのか、もっと別の理由があるのか、わからないけれど。
今日はルナと一緒に過ごしたい、と、甘えと呼ぶには冷たくて、わがままだと思うには固すぎる声を聞いたわたしは、一も二もなく首を縦に動かした。この声を聞くのは二回目だ。
シンの部屋に案内されて、すっかりソファー扱いのベッドに腰掛ける。おかれたテーブルの上には、真四角の缶がある。
「開けていいよ」
その言葉の導きのまま、わたしは蓋に指をかける。想像よりもずっと軽かった缶は、たいした力を入れずとも中身をさらけ出す。
真っ白い花びら。薬のケース。大切にしまわれている、ピカピカのFAITH証。誰のためのものかなんて、聞かなくてもわかる。
「…………」
だから祈った。戦友だった、同期だった、厳しいところもあったけれど、不器用なりに優しかった。レイのことを、わたしは、どう思いたいんだろう?
「……もう、二年前なんだね」
「そうだね」
わたしは、レイの抱えていたものを、一つも知らない。たぶん唯一それを共有していたのがシンで、だけどシンはレイの秘密を話したがらなかった。わたしだって詮索する気はなかったけれど、ずっとふさぎ込んだままのシンを見ていられなくって、そんなに重たいものならわたしにでも他の誰にだっていいから打ち明けなさいよ! と、何度も腹を立てたこともあった。
だけれども、今こうして、シンはこの小さな、レイのためのものを、わたしにも見せてくれた。
「ね、シン。レイのこともっと話しましょうよ。……アカデミーの時とか、ミネルバの時のとか、たくさん」
隣の黒い髪が揺れるのを見て、なんだかほっとする。
「前も言ったかもしれないけどさ、レイと別れる前、ルナマリアは強いって、レイが言ってた」
「なにそれ初耳! ……シンづてじゃなくって直接言いに来なさいよ、レイのばか……!」