赤毛の少年と出会った翌日、ユーグラムはうさぎを狩ってくる、と叔父に言い残して、まっすぐに彼と出会った場所へ、銀色のボタンを探しに行った。叔父に見られているなかでは、取り上げられそうで怖くて拾えなかったキラキラしたそれは、昨日落ちた場所から遠くにいかなかったらしい。ほんの少し土ぼこりで汚れているけれど、このくらい拭けば落とせる。
ユーグラムは、小さなボタンを両手で包むようにして持ち上げる。どこにしまおう。幼い少年の手に乗った輝きは、丁寧にしまっておかないと見つかってしまう。
服はだめ。靴もだめ。脱ぎ着するのにいちいち取り出してはなにか隠していると思われる。部屋のなか、論外。絶対に取り上げられて取り戻せない場所まで捨てられる。
どうしよう。絶対に叔父さんに見つからない場所……。そうだ、水汲み用のバケツ、薪をストックしている外の物置……だめだ、見つからないと、どうして疑いもしないのだろう。どちらもユーグラムが用意しているが、使うのは二人ともだ。
絶対に彼の使わないもの、ユーグラムの所有物。
ユーグラムは左手でボタンを握りしめたまま、手袋をはいた。
◆◆◆
それから、半年。ブラック家とその周辺は焼け、領地に残された幼い子どもは身を寄せあった。バズの家の焼け跡から宝石やアクセサリーを探す。人の家のなかを荒らすようで気が重かったユーゴーは、一人廊下だった場所にとどまった。バズにとっても、他人に触れてほしくない領域だったのかはわからないけれど。
ユーグラムは足元の大剣を持ち上げる。重たかったが、持てない重さではない。毎日のように要求された水汲みや薪割りの方が、よほどつらかった。
「それ、おまえが使いたいなら持ってけ」
「……いいの、売らなくって」
「いーんだよ。弓使えないんだから、代わりに剣持ってた方がいいだろ」
バズはこの部屋にある換金できるものをすっかり集めたのだろう、袋は丸くなっていて、バズがずんずん進むのにあわせて、じゃらじゃら音をたてている。
ものの良し悪しのわからないユーグラムはバズがより分けるのに従って袋にしまっていたから、「いいもの」が日の光を反射してキラキラ輝いていることだけを覚えた。あのときから大事にしているボタンと同じだ。そう、あのボタンと同じ、銀色……。
もしも、お金が足りなくなって、バズに返してって言われたら、どうしよう。
翌日、バズがまだ眠っている朝方。ユーグラムは剣の柄に填め込まれていた意匠を自身の大切なものと入れ換えた。
「ねえバズ……きのう、剣をくれたよね」
「ああ。それがどうかしたのか?」
「あのね、剣の飾りかな……。それがさっき、取れちゃったんだ」
本当は、取れたのではない。ユーグラム自ら、壊して外したのだ。
「これも、お金にできるかな」
ポケットを探り、銀色の飾りをバズに見せる。朝日を反射している。
ボタンの代わりに。
「見せてみろ」
ひんやりした銀が温かい手のひらに渡る。
「……」
バズはそれをつまんで、角度を変えながら、鳥の意匠を見つめた。
じっくり見て、時々裏返したり影に隠すような見方もして、ようやく
「これは、売り物にはできねえな」
そうバズが言ったから、ほっとした。
よかった。
きっとバズのくれたボタンの方が、価値があるんだ。
バズは手のひらの鳥をハンカチで包んでズボンにしまう。
「ユーゴー、手見せろ」
「……うん」
利き手を差し出すと逆だ、と言われた。
そっちの指、切れてる。
バズに指摘されてはじめて、乾いた血に気付いた。そっか、あれもきっとぼくの血で汚してしまったんだ。だからバズは……。
「ちゃんと洗ってこい。包帯巻いてやる」
「いいよ。もったいないもの。……ありがとうバズ」
剣もボタンも、バズのくれたちからの象徴だった。バズと一緒に鍛えていれば、ぼくもいつか強くなれると信じていた。
あのひとがみつけてくれる、その日まで。