布団の中で寒さに震えて目が覚めた。お天気キャスターが伝えた「今年一番の冷え込み」の威力は想像以上だった。
目覚まし時計の仕事はあと十分先だと言うのに。ああ、寒い。だが、いつもより早く覚醒したのだから、部屋を暖めたり湯を沸かしたり、とにかく布団から出なければならない。俺はスウェットから私服に着替え、タンスから厚手のパーカーを取り出した。
支度を整え、ニュースキャスターの声をBGMにしてほとんど同居人の領域になったキッチンに立つ。まずはやかんを火にかけ、音が鳴るまで放っておく。トースターには二人分のパンを入れて、スイッチを入れて放っておく。あとは冷蔵庫の中身(と言ってもほとんど物がしまわれていなかった)から簡単な調理しか出来ない俺でも作れるメニューを考えるだけだ。
目に入ったうち使えるものは数種類の野菜と、ベーコンと卵。メニューはほとんど自動で決定した。
フライパンでベーコンを焼く。焦げ目がついたら皿に並べ、良く熱せられたフライパンに溶き卵を流し入れる。
ピィーとやかんが沸騰したことを騒ぎ立てたら火を止める。冷蔵庫には昨夜食べたサラダの残りもあるから、食べきってしまおうか。
考えていると、同居人が驚いた様子で自分を見ていることに気付いた。
「おはようフリオニール。もうすぐ出来るから早く顔洗ってこい」
「おはよう、クラウド。……わざわざすまない。片付けは俺がするよ」
助かる、と伝えるとフリオニールは洗面所に向かっていった。ほんの少し目を離した溶き卵は所々火が通ってしまっている。
フリオニールが作るような半熟卵を再現するのはなかなか難しい。火を止めて、半分に分けて皿に盛り付けた。
そこに顔を洗ってさっぱりした様子のフリオニールが揃いのマグカップを用意する。ベーコンにスクランブルエッグもどき、ポテトサラダ、最後にパンも並べば朝食の完成だ。
インスタントコーヒーは各自で用意して食卓につく。
「いただきます」
二人同時にそう言ってから、食べ始める。ほとんど焼いただけの料理だが、前食べたのよりもうまい、と言われると俺は嬉しくなる。とろとろの部分を多目に渡して良かった。
食事を終え家事をある程度終わらせると、俺はすることが無くなってしまった。俺は買い物メモを作っているフリオニールの向かいに座る。
こうも寒いとこたつが恋しく、エアコンで暖めた部屋にこもっていたくなるが、午前中はそうもいかない。だが、午後からは?名前を呼べば、こちらを向いた。
「昼からは、家でのんびりしよう。寒いからこたつ布団を敷いて、三時にはコーヒーを飲むんだ。夕飯の仕度も二人でしよう。」
「何だそれ。ほとんどクラウドのしたいことじゃないか」
「確かにな。だがあんたと一緒じゃないと楽しくない」
フリオニールの顔があっという間に赤くなる。鋭い目付きで睨まれても、ああ可愛い、くらいしか思わないから構わんが。
「…………クラウドのしたいことに一日付き合ってやろうじゃないか」
「ありがとう。じゃあ買い物から片付けないとな。メモはもういいか?」
「ああ、生活用品は書いたから。スーパーで買うのはクラウドの食いたい料理による。運転よろしくな」
まさか本当に就寝時間まで付き合ってもらうとは、この段階では思っていなかった。