拝啓 無駄な動きが減ったことを褒めてくれてありがとう
視野が極端に狭くなる癖に改善が見られたとき、良ければまた褒めて欲しい
あなたに褒められると、認められたと思えるから。 敬具

追伸 どうか俺の思いに気づかないでくれ
フリオニールより



 一人きりになれるタイミングを見計らって、柔らかい地面に手紙のようなものを書きはじめてから数週間。手紙の形式はよく知らないからたまたまモーグリから届いた一通を真似した。
殆ど省略しているから、拝啓、敬具の使い方すら怪しいものだが、砂を均等にならしてしまえば、形式がどうかも書いている内容なんてすぐにわからなくなる。
 宛名は書かずに、事実と願望が詰め込んで手紙のような文を綴り、自らの手で無かったことにする。この一連の行動でどうにもならない心情が昇華されていく気がして、一人になれたときに続けている。
踏み固めて消してしまえば、心の内側が表に出てくることはないからと思い込んでいるのかもしれない。
文字を手段に使うのは予防線だった。声に出してしまえば誰かに聞かれるかもしれない。
だが、届かない手紙は誰の目にも触れること無く捨てられるし、万に一つ見られたとしても、仲間にとっては知らない言語の書かれた文字の羅列に見えるだろう。
実際、一度だけ見られたときに内容は理解されていなかったはずだ。
 その目撃者はレターモーグリの一匹だった。何か書いている事をモーグリは理解したらしく、仲間の使うもので良ければインクも便箋も用意する、と申し出てくれたが、俺は固辞した。
他の世界ではどうだったか分からないが、俺のいた世界では紙は高級品だった気がしている。
魔導師や貴族の使うもの、というイメージがあるから、庶民だった俺にはどうにも敷居が高い気がしてならなかった。
 今日も書き終えた手紙を消して足で地面を踏み固めて、息を吐く。これで、彼の前でもいつも通り振る舞える。