クラウドが眠っている。秩序の女神の加護によって維持されている静かな森の中で、穏やかに。
昨晩は見張り番だったし、カオスの手駒が昼夜関係なく襲い掛かってくる現状では、疲れてしまうのは無理もない事だろうし、休むべきタイミングで休めるのは、戦士としての才能だと思う。
時間の許す限り休息にあてて欲しいが、そうも言っていられない事情があった。
「起きてくれ。そろそろ昼飯の時間だ」
そう、昼飯だ。たった十人、しかしその過半数は食べ盛りの十人なのだ。質より量、加えていかに手軽に摂取できるか。行軍中の食事は常に意識されるため、あっという間になくなってしまう。
ティーダに取られるぞとか、料理が冷めるぞとか声をかけて、名を呼んで、数回肩を叩いたりしても、穏やかな寝息は変わらない。陽の光を浴びて柔らかい金色が一層輝いて見える。
だから、魔が差してしまったんだ。
「クラウド、いい加減起きてくれ。もし起きなかったら…………キス、するからな」
いつも翻弄されっぱなしだから、困らせてみたくなったんだ。そう自分に言い聞かせる。合意の上で関係を持っているとはいえ、無防備な恋人相手に、許可もとらずにする、というのは良くないことでは無いだろうか。浮かんだ考えを打ち消して、距離を詰めていく。
どくどくと脈打つ音がすぐ傍で聞こえる。すぐ横にしゃがみこむと、彼の寝顔がすぐそこまで近付いた。
……文句は聞いてやらないからな!
唇の端に、自分のものを近付けた。彼のまぶたは閉じられている。こっちは緊張してどうかしそうなのに、いい気なものだ。
「俺は、ちゃんと、起こそうとしたからな」
クラウドに、というよりも自分に言い聞かせるように呟いて立ち上がる。クラウドにとっては寝てる最中の出来事だから記憶に残らないかもしれないが、俺の頭からは離れないのが、とても恥ずかしいことだと思えた。
早く皆と合流しよう。動かそうとした体を強い力が引き留める。何度も感じる体温を、他人のものと間違えるはずがない。が、寝入っているとばかり思っていた彼の行動に動揺を隠せなかった。
「え、い、いつから、起きて」
「あんたが呼びに来たあたりか?はっきり起きたって言えるのはキスするって言われた当たり」
嘘だろ!ほとんど最初から起きていたのか!?クラウドがニヤリと笑う。くそ、まんまとはめられた。悔しい。
「フリオニール、一ついいか」
「文句は聞かない」
「そうじゃない。今度からはこっちにしてくれないか?さっきみたいなのは物足りないんだ」
こっち、と指差されたのは唇。挑発されている。出来ないだろうと思われている。待っていろよクラウド。いつか絶対に、お前のこと襲ってやるから。