クラウドが目覚めたとき、天幕の中は二人きりだった。セシルはすでに外に出たらしいが、大抵彼と同じ時間に起きるはずのフリオニールはぐっすりと眠っている。とばりを捲って外の様子を見ると、辺りは朝日に照らされる少し前の静寂に包まれていた。彼の安眠を妨げないよう、クラウドは物音を立てないようにしながら、身支度を進めた。今朝は哨戒が割り当てられている。
クラウドが外に出ようとしたタイミングで、
「クラウド、フリオニールは起きてる?」
とセシルから声がかかった。足音は聞こえなかったが、まさか浮いてきたんじゃないだろうな。まだ寝ている、と返すと、じゃあ寝かせたままで良いから聞いて、と言葉を繋げる。
「今朝の哨戒はオニオンナイトとスコールが、炊事は僕とティナが代わるから、君はなんとしてもフリオニールを起こさないようにするんだ」
「わかった。だがセシル、どうして俺も休む必要がある?こいつを休ませるのが目的なら俺の担当を変える必要は無いだろう」
クラウドを残す理由ならあるよ、とセシルは言った。
「僕ら二人が居なくなったら彼は起き出して僕らのところに来るから止める人が要るだろ。勿論、哨戒班に話はつけてるしティーダたちにも近付かないように言いくるめてる」
布の向こうでおそらく笑みを浮かべながら、決定事項だから従ってね、と言われてしまえば逆らえない。
「わかった。でも、一つ聞きたいことができた。俺達を除いていつこんなことを決めたんだ。こんなことを話している様子もなかったのに」
「ああ……知らなくても当然だよ。三日前、クラウドがオニオンナイトと組手してたろ?その時に思い付いて決めたことだから」
即断即決にも程がある。側にいたウォーリア・オブ・ライトにすぐさま許可をとり、協力を名乗り出たジタンが駆け回って、全員の了承を得て、あとはフリオニールにばれないように過ごすだけだ。結構日はターゲットが熟睡する日、としか決められていなかったずさんな計画は、どうやら成功を収めたらしい。
それじゃあ、あとはよろしくね。セシルは踵を返して離れていった。
クラウドはすることがないので、隣で寝息を立てている青年を眺めている。武装を解き、横になって眠る彼を見るのは久しぶりだ。
コスモスの加護が強い領域にたどり着くまで混沌の軍勢が続いていたから、疲れが溜まっていたはずだ。
しばらく見つめていると少し身動ぎしてまぶたをあける。
「んん……クラウド?見回りは?てか、もう朝?起きなきゃ……!」
「大丈夫だ、今日はなにも当たっていない。お前の担当はセシルが代わってくれる」
起き上がろうとしたフリオニールの肩を押さえ、横たわらせる。
「眠いか?」
「平気だ、と言いたいが……瞼が重い」
それならば、とクラウドは手のひらでフリオニールの視界を遮ったが、このままでは寝入ってしまうじゃないか、と抗議の声が上がった。だがその声も小さくなっていき、静かな寝息に変わっていく。そっと手のひらをよけると、穏やかな寝顔を覗かせた。
せめて今だけは、戦いのことを忘れて、ただ穏やかに眠ってくれたなら。クラウドは静かに彼の頬を撫でた。